Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

今年の1冊になる:中国化する日本 / 與那覇 潤 (著)

気鋭の若手学者 與那覇 潤氏による話題の著作『中国化する日本』。現在、愛知県立大学准教授である與那覇氏は、日本近代史学者。歴史学の視点から、新しくグローバリゼーションを捉えなおした一冊。

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

著者の言葉を借りれば、今の歴史学の常識になっている日本史を中核にして議論が進みます。20年以上も前に、義務教育、高校教育を卒業してしまった人たちにも知られてきているように、最近は、日本の歴史の研究が進み、新しい事実が発見され、それに応じて、新たな知見が作られています(昔、昔はそんなに研究者が多くなかったが、この数十年は増えたので、新しい発見や細かい文献調査も進んだのでしょう)。例えば、最近の教科書から、聖徳太子の記述がなくなってきている件などに代表されるものです。それらの新しい知見から、日本史を1000年で区切って、中国史と比較することで、今後の日本を考えてみる一冊です。

本書は、間違いなく今年の1冊として必ず選ばれる本となるでしょう。非常に刺激的な内容です。お勧めです。
(2011年に出版されていますが。。。)

と最初に推奨しておいて、ぼくが感じた本書の残念だったところから。

  • 読みやすいようにということで、與那覇氏の講義をできる限り採録する形態で構成されているために、ぼくには、逆に読みにくい。なにかというと、すべて口語なので、文章がずっと連なったものとなるために、主旨が読みにくい部分が結構ありました。
  • 日本に対する近世、近代の分析は、(たぶん) 正しい。 しかし、現代 (90年以降から現在) については、正しいのかもしれないけど、僕自身が知っている時代のために、この分析に対しては、少し違和感があること(正しいかも知れないけど、気持ちの問題なので)。

さて、内容の前に、題名ですね。

かなり誤解をよぶ題名だと思います。與那覇氏自身が定義する「中国化」とは、尖閣諸島に始まるような中国が日本を攻めてきて云々という話ではなく、宋以降に確立された中国の仕組みをさしています。


中国化とは、「皇帝以外の身分制の廃止。科挙という名前の官吏選抜制度(→ つまり世襲ができない) 。移動の自由・営業の自由・職業選択の自由などの自由活動の実現。しかし、皇帝への批判はご法度。基本骨格は、宋王朝(960年 - 1279年)時代に確立された」といったものです。今のグローバル化と捉えてもいいかもしれません。

この定義からわかるように、西洋化(近代化)との違いは、「皇帝への批判はご法度」というところにあります。それ以外の経済の自由、身分制度の廃止などでは、西洋に先駆けること数百年前に近代につながる文化が確立されていることことだそうです。「え!」と思う人も多いかもしれませんが、この100年くらいは発展途上国な状態でしたが、中国は清の時代まで世界最大の経済大国であるほど、当時は、先進国だったのです。

このような中国化に対するもうひとつの軸が、「江戸化」です。江戸化とは、中国化の反対。つまり、「藩・幕府を支える世襲官僚(武士)制度 。移動の自由・営業の自由・職業選択の自由などの自由活動の制限」です。日本でも、平清盛や戦国時代には、中国化に進み始めたが、江戸時代という長い時代を通じて、確立されたのが「江戸化」ということです。

日本では、近世以降、江戸化と中国化がせめぎあって、社会が作られていた。例えば、明治維新後に、一度中国化が進む(世襲制の廃止や経済の自由化など)が、また再度江戸化する。このせめぎあいが、副題の「文明の衝突」ということになります。

日本史をもう一度勉強したい人や、これからのグローバリゼーションについて考えてみたい人には、お勧めの一冊です。