Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

感想:スティーブン・レヴィ 『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』

待望の スティーブン・レヴィ新刊『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』(原題: In the Plex: How Google Thinks, Works, and Shapes Our Lives) をやっと読了。やっとというのは、約600ページの大作。http://www.amazon.co.jp/dp/4484111160

グーグルの創業話を知りたい人!
はい、書いてあります。
グーグルの検索技術などの開発ストーリーを知りたい人!
はい、書いてあります。
どうやって、儲け始めたのか知りたい人!
はい、書いてあります。
話題になる採用の話や食事無料含めたオフィスの話を知りたい人!
はい、書いてあります。

しかし、ぼくが知りかったことは、そこではありませんでした。

著者 スティーブン・レヴィは、以前は、Newsweek誌主任テクノロジーライター兼シニア・エディターで、活躍し、現在は、Wired誌シニアライターとして活躍中。日本でも、ほとんどの著作が邦訳で入手可能です。スティーブン・レビーという表記もあるので、注意が必要です。ビルゲイツ、スティーブジョブスに一対一で会うことができる数少ないジャーナリストなんていう紹介も見たことがあるくらいに、最も影響力があるIT分野でのライター。

個人的に読み始めたのは、『暗号化 プライバシーを救った反乱者たち』からです(ぼくの記憶では、ハッカーズは、日本では長らく廃刊だったはず。) 活躍期間は、長いのですが、単行本として出版される冊数は、多くありません(というか、寡作だと思います)。理由は、綿密に取材を繰り返して、本に仕上げるとからだでしょう。

さて、本作は、数年がかりの取材を元にして、記述された待望!に近い本になります。出版される前は、「いまさら、グーグルなの?」という声もネットではよく見かけましたが、そこは、レヴィー、ぼくが今まで読んだグーグル本の中で、気になっていたところを、かなり、書いてくれています。http://www.stevenlevy.com/

ぼくがずっと気になっていた点は、2点です。

  • どうしても、あんなに秘密主義なの?
  • なぜ、あんなに社会とのコミュニケーションが下手なのか?

グーグルは、「邪悪になるな(Don't be evil)」という(非公式らしい)モットーで知られる企業であり、オープンソース活動にも積極的に関わっている関係から、一見オープンな企業という感じがします。しかし、実態としては、ほとんど重要な情報を公開しないという方針を貫いています(だから、グーグルウォッチャーのような人がいるのでしょう)。株式公開してからも、同様で、売り上げに関しては公開するが、必要以上に公開しないということをあらかじめ宣言した上で、決算発表することを、あらかじめうたっています。結論としては、創業者の性格によるところが多いということなのですね。秘密主義に対するいくつくも事例が紹介されます。だからこそ、本書がすごいのが、正式に取材した上で、かなりの部分が公開されたということでしょう。

2つ目は、どうして、いつも新しいサービスを発表したり、製品をリリースしたときに、もめごとが多いのだろうかと言うことです。個人情報を扱うから、かなりセンシティブな状況があるため、そこは、それで、かまいません(どこの企業が対応しても、大変なので)。しかし、問題になったとき、初期の頃は、日本の広報が機能しなかった(当時、存在しなかった模様)りしたことがよくあったのを覚えいている人も多いはず。これは、米国でも同じ状況だったのがわかります。なぜか。。広報が、どんなサービスリリースするかを、事前に知らないことがよくあったからということなどを本書では、エピソードで取り上げます。
他にも、製品品質のトラブルについても、創業者は「サポートという考えは、前世紀の考え」ということで、サポート組織すら、当初は作りません。現在においても、サポート組織自体は、会社の大きさに比較すれば、非常に小さい組織で維持されているとのことです(すごい割り切り。サポートは、ユーザー同士でやれ! という創業者の発言は、大胆。)。

そりゃ、こんなマネジメント手法取っていれば、トラブル起こすし、品質クレームが上がることもうなずけます。

その他に興味深く読んだのは、中国政府とやりあった章。1章使って、記述されています。中国の従業員やライバル会社CEOが、「政府に検閲されていて、情報出せって言われても、出すことには、抵抗感もなしし、問題があるとも思わない」という意識を持っている環境で、「邪悪なことするな」的なモットーを持っている企業が、ビジネスを展開するのは、非常に難しいですね(取材に来た記者には、お足代ださないといけないとか。ふぅ)。特に、創業者ブリンが、両親がいじめられていたソビエトから脱出してきたユダヤ人である境遇を知れば知るほど、ジレンマに陥っていくのが、よく描かれています。


邦題の「追う立場へ」は、わかりますよね。最近のフェイスブックとの競合の話です。そこは、さすがに現在進行中のため、さらっとです。基本的に、グーグルのDNAは、アルゴリズムがベースにあり、データ分析、展開とつながります。フェイスブック的なるものとは、逆です。Google+含めて苦戦なのも、よくわかります(ただ、ビジネス的に、その分野を本当にグーグルが追いかけないといけないかは、議論あると思います)。


翻訳は、大作だったので、さすがに、ちょこちょこ誤植あったと思います。技術用語については、あれーというのもあった気がします。しかし、読みやすいので、600ページということに、めげなければ、大丈夫!

レヴィーの前作は、iPodの話でした。そこで出てきたエピソードに「コンパックが当時iPodと同じような機器を開発していたけど、ビジネスにできなかった」事例が紹介されます。そして、本作では、「DECが、AltaVista(Google創業当時には一番有名だった検索サイト) をビジネスにできなかった」事例が紹介されます。個人的には、この2社を吸収した企業に勤めていたので、これらのエピソードは、とても考えるところがありました。