感想:『この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案 』(松尾 匡 著)
『この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案 』(松尾 匡 著)を読了。
松尾先生は、立命館大学の教授。マルクス経済学を専門とする経済学者です。ということもあり、スタンスは、左派から安倍政権に勝つ(=松尾先生の定義では民主主義を救う)ための経済政策を紹介する書籍になっています。
ざっくりとした結論は、「もっと金融緩和をして、もっと給付や減税などの財政出動して、国民(よりも、人民!かな)を助けることが勝つ政策だ」ということになるでしょうか。
内容は、
第1章 安倍政権の景気作戦―官邸の思惑は当たるか?
第2章 人々が政治に求めているもの
第3章 どんな経済政策を掲げるべきか
第4章 躍進する欧米左派の経済政策
第5章 復活ケインズ理論と新しい古典派との闘い
第6章 今の景気政策はどこで行きづまるか
となっています。第2章では、一般国民が政治に求めているのは景気・経済なんだということを説明しつつ、それに対して、きちんとした経済政策を出せないと第1章などで、紹介しているように、「安倍政権にやられてしまって、最終的に憲法改正」などをやられてしまうよと。安倍総理は本気だと強く訴えています(アジテーションっぽいのですが)。
それは、書籍の前書きを紹介した次の記事を読むと雰囲気が伝わってくると思います。
異次元の金融緩和と大規模な財政出動(公共工事だけではなく、いろんな分野への財政出動。給付など)は、欧米では左派の政策であることを紹介しています。特に、欧州において、左派が最近躍進していることを紹介し、彼らの政策が異次元の金融緩和と大規模な財政出動であることも紹介します(ただ米国の例は、正しくないと思います。サンダース候補はマクロ経済政策はほぼ何も言っていない)。
世界の左派・リベラル派のノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン、ジョセフ・スティグリッツ、アマルティア・センや『21世紀の資本』のトマ・ピケティが、日本に来日したときのインタビューを引用して、アベノミクスを支持してることと、その背景を紹介しています。そして、日本の左派・リベラル派は、金融緩和反対・財政規律重視のために、世界の潮流と違う方向に進んでいるので、これだと勝てないということを嘆きます。
ご本人が書かれているように、松尾先生は、左派・リベラル派のメディアでも滅多に取り上げられませんし、政党でもブレーンとしているところはありません。この書籍が売れれば、もっと取り上げられるかもしれません。
感想としては、アジテーションがかなり強いところがあるので、それを割り引いて読んだ方がいいかなと思います。あと、田中秀臣先生のブログでも書かれていましたが、ぼくも気になったのが、「長期的には日本の潜在成長率を0%」としているところです。論文に書かれたそうですが。なお、第4章の北欧の話、第5章は勉強になりました。