Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

概念化するな、場を作れ! 〜 『町山智浩の編集教室 「雑誌・映画秘宝の創り方」』 〜

  • 人生で影響を受けた人の名前を知らなかったことってありますか?

普通、人生で影響を受けた人というと、親族を除けば、大抵有名人や歴史上の偉人といったところだと思います。しかし、その人の名前を知らないのに、影響を受けた人っていますか?

僕にとって、(たぶん)唯一なそんな人が、「町山智浩」氏です。

昨日、OpenCU*1 で開催された『町山智浩の編集教室 「雑誌・映画秘宝の創り方」』というイベントに参加してきました。初めて、生で町山さんとお会いして、挨拶もできたという記念すべき日になりました。内容自体も非常におもしろかったです。

まず、町山さんを知らない人に、「どんな人?」という経歴、次に、昨日のイベントの概要、最後にぼくが影響を受けた話を書きます。

  • 今なら『小島慶子 キラ☆キラ』のコラムニストで有名

知る人は、ものすごく詳しい町山さん。しかし、テレビにすごくでている人でもないですし、アメリカ在住のために、声やコラムは知っていても、実物を見たことない人も多いかもしれません。町山さんの経歴を、Twitterの自己紹介を引用すると次になります。

 映画評論家。連載は週刊文春、クーリエ・ジャポン、anan、サイゾーなど。MXテレビ「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」解説。TBSラジオ「キラ★キラ」毎週金曜日午後3時レギュラー。

元々は、宝島社で編集の仕事をされていました。当時『宝島』は音楽雑誌だったのです(ぼくも記憶がかすかにある)。そのころ担当されていたのが、みうらじゅんさん、デーモン小暮さんだそうです。この後、『別冊宝島』に異動して、ベストセラーを企画編集となります。大学生だったぼくは、立ち読みも含めて、『別冊宝島』を買って読みあさっていました。WikiPediaによれば、『裸の自衛隊!』『いまどきの神サマ』なを企画しているとあります(その後、別冊宝島のおもしろさは急激になくなり..)。その後、洋泉社に出向し、ベストセラー『トンデモ本の世界』を企画編集されます(トンデモ本の世界は、この後シリーズになりますが、急激におもしろくなくなってしまいました)。2つともおもしろくなくなった頃と、町山さんの移籍の時期が重なります。

その後、渡米し、『TVブロス』や『サイゾー』などでのコラムを連載、現在に至るという感じでしょうか。

今回のイベントは、洋泉社時代に創刊した『映画秘宝』の編集について、語るという形になっています。

  • 『映画秘宝』は、今や映画雑誌で日本一!

今回のイベントの趣旨は、

町山さんが編集者としての経験をしっかりと伝えているのが、今や映画雑誌で日本一となった『映画秘宝』のスタッフだけではないかということで、いろいろな人に、自分の持っている知識やノウハウなどを共有したいという思いを形にしたものだそうです。

音楽雑誌、特集を中心にしたムック、書籍、雑誌といろいろな編集をしてきた経験を伝えるということが目的になります。そのため、『映画秘宝』という題名から、映画だけの話だと想像するかもしれませんが、「映画」雑誌の作り方という内容にとどまらない幅の広いものとなっています。概要は、次の通りです。

  1. 雑誌市場動向
  2. 影響された雑誌と、どういう点がよかったか?
  3. よい原稿、よい編集とは?
  4. Q&A

トータルで2時間30分のレクチャーのため、ブログに書ききれるものではありません。主催者の方々が、ustreamにアップロードされているので、詳しくは、→ http://www.ustream.tv/channel/opencu-ustream/videos を見てください。

  • 崩壊する雑誌のビジネスモデル!

映画雑誌を中心にした市場はどうなっているのでしょうか?

  • 米国では映画雑誌はなくなった。映画の学術書やシナリオ作成のような雑誌はあるが、一般的なものはなくなった。
  • 英国でもほぼなくなっている。
  • 日本でも、雑誌ロードショーはなくなった。CUTは、今や映画雑誌とはいえなくなった。スクリーン、キネマ旬報や映画秘宝などが残っている状態。昔は、異端だといわれていた映画秘宝が、一番日本で売れる映画雑誌となった。

映画雑誌だけではなく、今世界的にも雑誌という市場が衰退しています。米国では、いわゆる書店がほぼなくなってしまって(バーンズアンドノーブルの書店が大都市にある程度)、雑誌を購入するには、定期購読ばかりになっている。では、国内雑誌のビジネスモデルはどういうものであったのでしょうか?

  • 国内雑誌の利益の源泉、それは「広告」

雑誌の利益をどこから生み出していくか? 利益が出ていないと、いくらいい記事を提供していても、休刊・廃刊になります。国内雑誌の利益は、多くは、広告から生み出されているといいます。例えば、ファッション雑誌では、編集部は、広告部と話をして、「どこの企業が広告を出してくれるか?」ということを話し合って、それから特集などの内容を決めるそうです。音楽雑誌を見ても同様です。特集されるのは、レコード会社が広告費とバーターにして、取り上げてもらう、そういう傾向が強くなりました。

そんな広告費用が少なくなっていたというのが昨今の状況です。では、広告主からみると現状雑誌広告とはどうものなのでしょうか?

  • 雑誌広告がどう売り上げにつながっているか、わからない。インターネット広告だとある程度トラッキングできる。それに比較すると、非常に雑誌広告は不明瞭。

つまり、広告主からすると、雑誌に広告を出すメリットがわからないということになります。ぼく自身が、外資系企業時代に広告を出稿を決めていた人でもあったので、この雑誌広告に対する動きは、非常に納得できるし、実施に、自分自身がとっていた行動と同じです。さらにいえば、効果が比較的見やすいにもかかわらず、「雑誌広告よりも、インターネット広告の方が、安価」ということもあります。

では、生き残っている雑誌には、どういうものがあるのでしょうか? それは、「広告だけに頼らない、実際の雑誌の売り上げで、事業が成り立っている」ということにあるとします。

では、どうして、雑誌の売り上げだけで事業が成りたつのでしょうか? それには、町山さんが影響を受けた雑誌の話をあげながらの説明があります。

  • 初期のぴあ、ロッキングオン、週刊プロレスは、よかった

元々、宝島社では、広告が少なくても雑誌が出版できるように、非常に細かく「原価計算」を実施していたそうです。紙、原稿料、取材費などのすべての原価を計算し、原価率を42%以下にしていたそうです。この原価率であれば、売り上げ目標達成すれば、利益がでるということだそうです。広告費を前提にした原価率の設定だと、広告費が減少すると、原価割れを引き起こすということになります。

原価を抑えただけでは、当然、雑誌は売れません(ちなみに、同じような雑誌に週刊金曜日がありますが、ぼくは、あの雑誌どうしても読めないのです。中身となります。

中身を考えるには、彼が影響を受けた初期の『ぴあ』や『ロッキングオン』を取り上げました。ぴあでよかったとおもったことの1つが、映画のコーナーに、名画座ガイドあり、映画に出演しているあるポルノ女優さんの後に常に、♡(ハート)マークが入っていたそうです。編集の人の顔は見えなかったけれど、「この人の気持ちや熱意」は、この♡(ハート)マークから伝わってきたといういいます。他にも、おすすめレーティングなどもついていて、意思が伝わってきたそうです。それは、読者まで巻き込む動きにまでつながっていったそうです。例えば、日本での上映権が喪失し上映できなくなっていた「2001年宇宙の旅」は、ぴあ読者の熱烈な要望から、再上映へとつながっていったそうです。これが、時代を経るにつれ、どの映画に対しても、フラットになり、価値観を出さなくなってきたといいます。

また、ロッキングオンについても、その当時の有名雑誌『ミュージックライフ』とは違う、評論中心の雑誌あり、ほとんど広告がなかった。そして、評論以外にも、ロックファンのツボをつくような小ネタも充実していたのがよかったとします。

週刊プロレスも、おもしろかった雑誌に取り上げました。町山さんがしゃべっていたように、読者は、必ずしも「プロレスを生で見ていない」ですが、「プロレス雑誌」を買って、読むという非常に不思議な展開がありました。

地方出身者のために、ぴあの初期については、知らないのですが、ロッキングオンについては、初期から中期(たぶん、90年代前半くらい?) あたりまでは、広告が少ない、マニアックな雑誌でした。ぼくもよく買って読んでいたし、そこで紹介されたインタビューや記事から、過去のミュージシャンに興味が出て、音楽の趣味が広がったりしました。週刊プロレスもよく読んでいました。しかし、プロレスを見に行ったのは、2回だけで、しかも、週刊プロレスを読まなくなって以降という経験です。

これらの雑誌に共通する特徴は何でしょうか?

町山さんは、『場がある』と指摘します。

『場』は誰でも作れるわけではないとも指摘します。インターネットでのSNSが出てきたときに、『場』が構築されるのを見て、これはくるなともおもったとのことです。

ぼくが働くIT業界での現状にも当てはまるなと思いました。今やいろいろな企業が出展する「展示会」は、ほとんどなくなってしまいました。米国でも同様の傾向です。多くは、企業が、「プライベートショ−」といった、その企業が主催するイベントショーを中心に宣伝を考えるようになりました。例えば、オラクル社『Oracle Open World』などです。そのようなプラベートショーでは、ユーザーや関係者の『場』を作ることができ、一体感を醸し出すことが容易になるということで、展示会形式のイベントがなくなってしましました。(これも、自分の経験ですが、率先して「展示会への出展をやめ、自社のプライベートイベントに切り替える」という動きをしていました)。

  • おもしろい原稿は出だしだ、編集は概念化するな

レクチャーでも、Q/Aでも取り上げられていたのが、「おもしろい原稿とは?」「よい編集とは?」というトピックです。内容が深いので、要約するしかありません。また、ライターの話と編集の話を分離して書くのが、難しかったので、まとめて書きます。

  • おもしろい原稿は、「おもしろい言葉が入っているか?」どうかだ。
  • おもしろい言葉のない原稿は、編集としては、原稿を受け取ってはいけない。
  • 編集は、見出しをつけるときは、「おもしろい言葉」を取り上げる。概念化しない。テーマを作らない。
  • 映画秘宝は、ふざけた文章だといわれるときがあるが、文章自体は非常にまじめだ。ディーテールをまとめているだけ。
  • ぐちゃぐちゃとなっているもの中から、いくつか取り上げ、ディーテールを再構成する。その取り上げ方、いい並べ方をすればよい
  • そうすると自然にテーマは出てくる。
  • 最後に、全体を串刺しする文章を持ってくる。ヒントだけでもいい。
  • 原稿で一番大切なのは、出だし。始まりがおもしろくないと読んでくれない。なんだかわからないことで興味を引いたり、といかけるような文章でもいい。映画でもオープニングが大切なのと同じ。
  • 次に、なるべく早く全体の方向性を見せる。読者は先が見えないものを読み続けてられない。
  • 内容を飽きさせないようにする。特に記名原稿では、キャラを立てすることが大切。

他にも、さまざまな内容が取り上げられています。

実際に、当日編集者になった気分で、映画秘宝の原稿を読んでから、「見出し」をつけるというワークショップがありました。見出しを、実際の原稿から編集せずに「持ってくる」ことを推奨します。勝手に、編集が概念化やテーマを作るなということを指摘します(ニュースや新聞では、違うとも指摘)。

ぼくも、このワークショップをやってみてわかったのが、町山さんのつくる雑誌のおもしろさを実感できたことです。

  • ぼくは何に影響されたかは、わからず

最後に、ぼくは、町山さんのどういうところに影響されたのでしょうか?

結論は、「わかりません。」 なぜか? それは、町山さんという人を、きちんと認識できたのは、『アメリカ横断TVガイド』(2000/09) 以降だからです。若い頃は、町山さんの関わった雑誌や書籍に影響を受け、何も知らずに、コラムを読みあさったこと。映画評論もよくわからず読んでいたこと。そして、自分のアイデンティティができた以降に、存在を認識したという人なので、影響がよくわからないということになります。

別冊宝島を読んでいたときは、編集という仕事は知らないですし、『トンデモ本の世界』のころも同じです。そのため名前も知りません。そのあと、大学以来ずっと購入し続けていた『TVブロス』でのコラム「まいっちんぐUSA!」がおもしろくて、ずっと読んでいました。しかし、町山さんという名前を認識していませんでした。さらに、『サイゾー』での連載も同じです。これらの情報がまとまって、個人としてきちんと認識が固まったのが、2000年代半ばのTBS『ストリーム』(キラキラの前の番組)のコラムのころなのです。

米国系外資企業で働いていたことからも想像できるように、ぼくは、米国のカルチャーなどには興味がある人でした。そんな中で、町山さんのコラムは、普通の米国紹介記事では取り上げられることが少ない、「普通のアメリカ人が話題にしていること」を中心に紹介してくれる。これが、ぐさっとささったのです。仕事柄、アメリカ人と話をすることが多かったわけ外資系時代ですが、毎日のようにミーティングや食事に行くと、ずっとビジネスのことばかりは話すことができません。そんなときに、町山さんの記事から知識をつけたことを話すると、話が盛り上がるということがよくありました。彼ら、彼女たちも、年柄年中ビジネスの話をしているわけではないので、そういう生活に密着した話題は、いろんなことを話してくれます。

今回、初めて直接、話を聞かせていただき、そして、本にサインをしてもらうときに、少しだけ言葉を交換させていただいたという機会を得ることができました。僕にとっては、本当に短い2時間30分でした。

そんなぼくが敬愛する町山さんへの入門では、各種の映画評論以外に、『小島慶子 キラ☆キラ』のポッドキャスト( http://www.tbsradio.jp/kirakira/pod/ )でしょう。また、書籍では、再刊された 『新版 アメリカ横断TVガイド 』をおすすめします。

USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)

USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)


当時の書籍内容の引用

黒ミサ猟奇殺人事件の犯人にされたゴス少年/自分の足首切断をネット中継しようとした男/身長231センチの競馬騎手?/「ロッキー」のモデルになった男/パリス・ヒルトンの百姓体験/負け犬がつかんだアメリカの輝き…。大人気コラムニストが贈る怒涛のコラム集!スポーツ、映画、ゴシップ、犯罪etc。知られざるアメリカのB面を暴き出す。

最後に、町山さんは、「自分の知識や経験を次の世代に伝えていきたい」という思いを強くされているようでした。ぼくも、最近1つ年齢を重ねて、そのような思いに共感し、また自分もそのような活動をしていきたいという思いがあります。まだまだ、町山さんは、まだ40代ですから、元気ですので、これからも活躍が続くと思います。興味のある方は、ぜひ、ポッドキャストを聞いたり、書籍を手に取られるといいと思います。

*1: 渋谷で開催されているクリエイティブを中心にした勉強会やイベントを展開している。”Open Creative University(オープン・クリエイティブ・ユニバーシティ)”の略。http://www.opencu.com/