Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

IT企業は買収・統合の時代から、分割・分散の時代へ

買収の話をすると、『日本ダメ論』を信奉する人は、日本企業の買収は失敗して、米国では買収はうまくいっているんだという認識をしていることがよくあります。しかし、経営学での長期の渡る研究では、7〜8割は欧米でも失敗しています。

入山 実はM&Aが難しいのは日本だけではありません。経営学者のこれまでの研究によれば、M&Aの7割~8割は、国内でもクロスボーダーでも欧米でも失敗するそうです。例えば米インディアナ大学のジェフリー・コーヴィン教授らが2004年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』(SMJ)に発表した研究では、M&A93本に関する統計分析の研究をメタ・アナリシスという手法で総合評価した結果、やはり買収した側は企業価値を毀損し、買収される側の企業だけが企業価値を上げるという結論を得ています。
( 引用 : 日本企業のM&Aに足りないのは異質を取り込む“ポスト”PMIの視点 | 経営学者×経営コンサルタントの「グローバル経営現論」|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

では、企業向けのIT業界というと、この10年ほどは本当に買収が多かったです。

90年代は、米民主党のクリントン政権だったこともあり、独占禁止法の適用も比較的行われていたので、大規模な買収は、2000年代に比べると少ない状況でした。
2000年代に入ってから、企業向けのIT業界は、買収・統合の時代が進みました。大規模なもので、個人的に印象深いのは、「HPによるコンパックの買収」「オラクルによるサンマイクロステムズの買収」といったものです。

その買収過程においては、日本では批判的に観られることが多い敵対的買収もあります。2000年代中盤、オラクル社は、ERP市場において、(現在でもですが) SAP (サップではなくて、エスエーピーと呼びます)の後塵を拝し、また、PeopleSoft, Siebelなどの特色あるERPベンダーに対しても、戦況がいいわけではありませんでした。そして、オラクル社が取った戦略は、敵対的買収を仕掛けるというものです。

news.mynavi.jp

このあと、Siebel, JD Edwards といった大手ERPの買収を成功させて、ERP市場では、オラクルの敵はSAPのみという状況になっていきます(SaaS/クラウドが大きく普及する前)。敵と競争するより、敵対的買収で市場から消す!という、超優良企業(キャッシュリッチ)でないととれないものですね。

さて、そんな買収・合併の時代から、徐々に状況が変わってきているようです。2004年に、シマンテック社は、企業向けソフトウェアベンダー大手のベリタスを買収しました。そして、10年経過した2014年に分社を発表しました。

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同時期には、同じく、ぼくの古巣であるHPも、PC・プリンター事業と企業向けハードウエア/ソフトウェア/サービス事業の分社化を発表しました。

toyokeizai.net

単品製品だけを販売するようなシンプルな事業モデルでは、単純に会社の規模を大きくしていくことは、できるのでしょうが、多くの製品やソリューションを販売するには、人間の能力の限界を超えるところが多々あり、また、複雑な決定を数多くしないといけない(部署間の調整など)ことから動きが遅くなるというひずみが見えてきているということでしょう。

今後は、事業部の分割売却や独立、持ち株会社にしての事業部ごとの別会社化などの進むのかなと思っています。成長する企業にとっては、実績や顧客ベースのある企業の事業を買収する機会が増えるということにもなるでしょうから、え!と思うようなことも起こるだろうと思います。