Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

感想 『長く働いてきた人の言葉』 (北尾トロ著) - 「仕事について語ることは人生について語ること」

最近では、一番感動した本『長く働いてきた人の言葉』(北尾トロ著)の感想です。

本書の存在を知ったのが、TBSラジオ「荻上チキsession22」のコーナー「Session袋とじ」で紹介されたから。書籍の出版にあわせて、ゲストに呼ばれたトロさんが紹介された内容に興味を持ち、読んでみたのです。

北尾トロさんは、裁判傍聴ものなど書籍で有名なフリーライター。本書は、そのトロさんが、芸能人でも、有名人でもない、普通の人たちの普通の仕事人生をインタビュー。普通の人といっても、タイトルにあるように、25年間コンビニ店長をしたといったように、ある仕事を長く行ってきた人々の話です。


取り上げられた方々の職業は、町の弁護士、ラジオ局の技術者、印刷会社の営業マン、喫茶店のマスター、船員、タクシー運転手、映像編集者、コンビニ店長、スクラップ屋、床屋さん。トロさんが彼らに数時間のインタビューを行って、まとめた内容。元々、トロさんの知り合いではない一般の人(マスコミの人も2名いますが)に、いろいろなパスを使って、たどり着き、インタビューする。


本書に出てくるみなさんは、転職や起業をしたりするのだけど、あらかじめ十分な設計に基づいて、決心されたものでも、強い動機などもほとんどありません。

例えば、女性の映像編集者は、就職試験に落ちたあと、叔母さんが勤めていた映画スタジオにアルバイトにいって、そのまま、映像編集のプロになってしまう。3年勤めたPR会社を、独立ありきで辞めたけど、やること決まらなくて、コーヒーの入れ方さえ知らずに、カフェをオープンする喫茶店のマスター。

そんな彼らの仕事を語ることが、語られるのは、仕事だけではなく、結果として、「その人の人生も語られる」、そんな内容になっています。

いくつか印象に残ったの人を紹介すると。

  • 船員の方。船員の職自体は、今は、個人事業主のように働く形態。でも、なぜ、船員の仕事を続けているかといえば、乗組員が一緒に仕事をする一体感が好きだからという。
  • コンビニ店長。地方銀行で10年、銀行時代の上司の会社で10年、そして、子供が東京の大学に入学したいからという理由で、家族全員で東京に引っ越してきて、そのころ成長期に入ろうとしたコンビニオーナーとして、25年。努力を重ねて、経営したコンビニは、地域でトップクラスの店に成長。65才の引退時に、25年間の間に、アルバイトで入った高校生、大学生を中心にしたOB/OGが、みんな集まって、送別会を開いてくれたという話。当時学生だったアルバイトは、地方から来た人は地元にかえったりして、今は全国に散らばっているけれど、この送別会のために集まって、慰労会を開いてくる、そんなつながりを作ってきた店長。店長も、コンビニの経営を通じて成長したけれど、アルバイトにきた学生たちも一緒に成長した話
  • 床屋さん。高円寺で40年くらい営まれている床屋さん。夫婦で経営していたけど、夫が先立ち、今は、妻(70歳超えている)が一人で切り盛りしている。40年も営んでいると、常連さんの中には、寝たきりになってしまっている老人も多いそう。その家に出張して、カットしてあげる。最後まで看取る。また、生まれてから、このおばさん以外に髪を切ってもらったことないサラリーマン。地域で、いろいろな人の人生を最後までを見続ける話


そんな普通の人が語る普通の話がいっぱい詰まったインタビュー集です。

仕事について語ることは人生について語ること(まえがきより)


PS. なお、キャリア理論に詳しい人は、本書を読むと、たぶん、クルンボルツのプランド・ハプンスタンス理論を思い出すと思います。

出版社の方があとがきで、トロさんがあえてプライベートのことをあまり聞かないようにしているということを書いています。そのとおりで、仕事が人生を語ることならば、その一部であるプライベートについても、もう少し深く問いかけた方が、もっと深みのある中身なったかもしれません。ただ、そうなる一人で1冊になっていまうので、トロさんのインタビュー術ですね。