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Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

[感想] 日本人はなぜ貧乏になったか? (村上尚己 著)

マネックス証券 チーフ・エコノミスト 村上尚己さんの初の単著である『日本人はなぜ貧乏になったか? 』です。

発売後、アマゾンでは、すぐに売り切れ状態でしたので、売れているのだろうとは思っていましたが、とうとう、3万部突破したベストセラーになっているそうです。

年末から最近まで、アベノミクスが話題になり、また、円安・株高で、製造業を中心に決算が好転し、経済に明るい兆しが久々にでている状況です。それに比例して、アベノミクスを解説する書籍が、数多く発刊されています。

その中でも、村上さんの書籍は、アベノミクスの3本の矢といわれる中での「金融政策」に焦点をあてた一冊です。

おそらく村上さんが執筆し始めた当時は、アベノミクスという言葉は、まだブームになっていないころだと思いますが、出版されたときに、「アベノミクスって、何よ? 」「物価目標って、何よ?」ということを知りたかった人に、まさに、タイミングよく出版された一冊です。

ただ、タイミングよく出版された一冊ということだけでは、これほど売れないですよね。書籍の構成が、アベノミクスを中心にした金融政策にまつわる、世に流布される通説を取り上げ、それをわかりやすく説明しているからに他なりません。

IT業界でいうところの、詳しいFAQ集のようなものと言ってもいいかもしれまません。

例えば、次のような話を一度は見たことがあるのではないでしょうか?

  • 金融緩和をすると、「ハイパーインフレ」が起こる
  • デフレになったのは、中国をはじめとした低価格の商品が輸入されたから
  • デフレになったのは、日本の人口が減ったから

それらの通説がおかしいことを解説してくれる一冊です。本書を読めば、会社で、学校で、家庭で、アベノミクスが話題になっても、通説に対して、正しい説明できること、間違いありません。

ところで、『日本人はなぜ貧乏になったか? 』というタイトルに、「え?」と思った人も多いかもしれません。「日本は豊かだ」と思っている人も多いでしょう。しかし、失われた20年とされる日本では、この20年間GDPは増えていません。結果として、一人あたりのGDPも増えていません。しかし、日本以外の国では、この20年間も、先進国でさえ、2%ー4%程度、経済成長をしてきています。そのため、他国に比べて、一人あたりのGDPが相対的に低くなっています。すでに、一人あたりのGDPは、お隣の台湾に抜かれています(この件は、あまり知られていないのは、ナゼなのだろうか?)。このままの状況では、数年後に韓国にも抜かれるだろうと予測されています。

でも、日常生活が豊かだったらいいではないかという指摘があるでしょう。日本は、デフレに突入してから15年で、働いている人の平均年収が、約15%も落ちているのです。しかし、物価が下がっていれば、生活費も安くなるから、いいだろうという人もいます。残念ながら、物価の下落率以上に、働いている人の年収の下落スピードが早いのです。

そのため、日本人が、貧乏になっていくという指摘につながります。このまま、平均年収が下落していけば、10年くらい前のベストセラーにあった年収300万円時代に本当に突入する状況です。


では、この状況が変わり、デフレを脱却し、通常運航に入り始めたら、日本人の給与はどのようになるのかということを、紹介しています。最後まで読めば、わかるのが、ものすごく前向きな書籍なのです。


マネックス証券の同僚の方がZai Onlineに書かれているように、

ぼくも、「おわりに」(一部引用)をぜひ読んで欲しいです。

たまたま、本書出版直前に、居酒屋で幸運にも村上さんの横になる機会をいただきました。初対面ながら、いろいろと話をさせていただきました。そのときに、ぼくも、(金融関係者ではないけど) 「おわりに」に書かれているような話を村上さんにさせていただいたのを思い出しました。

村上さんのスタンスがわかります。

僕はよく人から「なんでそんなに人生をかけてまで日本の不況と向き合っているのですか?」という質問をされる。たしかにそれによっていろいろな方から厳しい反論をいただくようなことはあっても、僕自身にとってはあまりいいことがある話ではない。

でも僕には、長年繰り返される日本の不幸を看過してはおけない明確な理由がある。そのことを、「僕が、社会人生活を始めてから、これまでのあいだ、経済を分析する立場にあるエコノミストとして、どんなふうに考えながら生きてきたか?」というお話をすることで説明させていただきたいと思う。

(中略)
僕は、最初の会社を辞めてから、これまでエコノミストとして、複数の会社を渡り歩きながら、幸いなことに金融市場の片隅でなんとかやってくることができた。当時の先輩の導きで、経済学の基本知見を身につけ、経済理論に基づいた金融政策、それと金融市場の動きを理論的に考える訓練を積むことができたためだ。当時の先輩には、いまでも非常に感謝している。

しかし、残念ながら、1990年代後半から日本経済最大の問題とされた、「デフレ克服」を日本はいつまでも実現できなかった。日本銀行の「政策判断ミス」が繰り返され、デフレが続き、日本人の給料が下がり生活が貧しくなる一方であることは、本書で説明したとおりだ。

そして、この「貧困化」の被害に最も遭っているのは、1990年代半ば以降に社会人になった僕(現在41歳)の友人たち、そしてそれより若い世代なのだ。デフレが長引き、豊かな生活を送ることができる職場がなかなか提供されない。普通の会社に勤めるだけでは、給料はほとんど上がらず、生活に豊かさを感じることができない20〜30代の若年世代なのである。

デフレによって貨幣の価値だけが高まり(貯め込んだ現金だけで生活できる人だけが豊かになる)、その一方で若者の価値(給料)はまったく上がらず、押さえつけられたまま。こんな状況がいつまでも許されていいのか?

僕の心は、出張で地方を訪れ、地方経済の凋落を目の当たりにする度にシクシクと痛んだ。失業者の存在がごく普通になり、地方ですらホームレスの方がリヤカーを引いている姿も珍しくなくなった。社会全体がどんどんギスギスするようになるのがわかり、98年にはついに自殺者が3万人を超え、僕が乗っていた通勤電車も人身事故でどんどん停まるようになった。そんなときに「人の迷惑を考えろよ!」という乗客の心ない声を何度も耳にした。

「正義なき力は暴力で、力なき正義は無力である」という言葉は哲学者パスカルの言葉だが、その言葉があまりに胸に痛かった。(中略)僕はあまりにも長年無力感に苛まれ続けてきた。
(中略)
この時代を生きるエコノミストとして、異常で理不尽な経済状況を放置することを、許容することができない。僕の子どもや、これから生まれてくる世代に、不幸で理不尽な思いを経験してほしくない、というのが正直な気持ちである。本当にこんなことは僕らの世代で、僕ら自身の手で終わらせなければいけない。>
(村上尚己『日本人はなぜ貧乏になったか?』「おわりに」より抜粋)

ぜひ、手元に一冊置いておくといい本です。