Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

選択の科学(アイエンガー著) の感想

読み始めたのは、11月くらいだったのですが、読み終わったのが先週末という時間がかかってしまった一冊です。(その間にたくさんの本を読みましたが) 内容は、非常に面白いのです。でも、個人的に読みにくいところがあり、他の本に逃避しつつ読み進みました(翻訳が悪いわけではないです)。

著者のアイエンガーさんは、カナダ生まれで、アメリカに移住。3歳の時、眼の疾患を診断され、高校にあがるころには全盲になったそうです。スタンフォード大学に進学後、社会心理学の博士号を取得し、現在、コロンビア大学ビジネススクール教授をされています。 しかし、NHK『コロンビア白熱教室』の先生といった方がわかりいい人がいるかもしれません。

この『選択の科学』は、彼女の初めての一般書籍となるそうです。中身はというと、MBAの先生なので、ビジネスよりの話が中心という思いきや、心理学の話が中心になります。

選択の科学

選択の科学

書籍の説明では、産業界に広く応用されている「ジャムの法則」が有名とあります。僕自身は、この「ジャムの法則」という名称は知りませんでした。しかし、このエッセンスとも言うべき、「選択肢が多すぎると、実際は、売上げが上がらない」「ある程度選択肢を絞ることで、選択者も選びやすいし、満足度も得やすい」ということは、どこで知ったのかは、覚えていませんが、記憶にあります。

「ジャムの法則」というのは、高級スーパーマーケットを舞台に実施された実験され、発見されたモノです。それまでは、豊富な選択肢がある方が、顧客も喜び、結果として、売り上げもあがるということが言われていました。しかし、結果は、逆を示し、24種類のジャムを売り場に並べたときと、6種類のジャムを売り場に並べたときでは、前者の売上げは、後者の売上げの10%程度しかなかったそうです。結局、あまりにも多すぎる選択肢は、選ぶことが非常に難しくなって、選べなくなるということようです。

これだけ書くと、「選択しない方がよいのか?」ということを思ってしまうかもしれません。しかし、本書では、選択することが大きな力を生むということを説明します。

本書では豊富な興味深い事例を紹介します。例えば、本書の帯に紹介されている事例は、次のようなモノです。

社長の平均寿命は、従業員の平均寿命より長い。裁量権つまり選択権の大きさにある。
・動物園の動物の寿命が、野生の動物よりはるかに短いのは、「選択」することができないからだ。
・何もかもが決められている原理主義的な宗教に属する人ほど鬱病の割合は少ない。
・わが子の延命措置をするか田舎の究極的選択。判断を親がするより、医者に委ねたほうが、後悔は少ない。
・スーパーで品揃えを豊富にすると、売り上げは逆に下がる。
・人は他人と同じに見られたくないため、あえて、不利益な選択をしてしまう。

ま、なので、起業したぼくの寿命は、伸びたと思います。思いたい。思うんじゃないかな。。たぶん、そうです。

本書から、1つ選択とは違う事例になりますが、ビジネス書的な内容を紹介しましょう。

米国企業では、従来から、360度評価という人事考課制度があります。一般的には、上司の評価だけでなく、同僚や部下などからの評価も人事査定の一環に加えるというものです(日本にある外資系企業の多くでも、導入されるようになってきています。しかし、すべての従業員に360度評価を実施しているとは限らないようです。 ぼくも、HP社につとめているときに、海外で働く多くの方の評価を求められ、フィードバックをしてきました。ずっと一緒に働いているわけではないので、なかなか評価は難しいです。)

彼女が教壇にたつコロンビア大学ビジネススクールでは、新入生全員に、元の職場の動力などに360評価を受けるというプログラムがあるそうです。実際に評価を受けた学生のうち90%以上の学生が、自分と他人との認識が著しく違うということに、驚くことが多いそうです。彼女は学生に、次のように説明するそうです。

「あなた方は自分の行動の背後にある意図がわかっているから、自分の行動を正当と考える。でも、人は、自分の見るものだけにだけに反応するものだ。(略) 他人はあなたの行動をからっぽの状態で判断するわけではなく、自分の経験のレンズを通して解釈するか、またはあなたの外見からこういう人物だろうと判断を下し、その人物像について一般的な固定概念を等して解釈するのだ。」

結構、アメリカにおいても、外見から人を判断して、評価すると言うことがあるということですね。他人持っているその人に対する認識とその人の自己認識の差を埋めていく方がよいという書かれています。ただ、これは、難しいですよね。「自分は、リーダーシップがあると思う。管理職としてバリバリできるぜ」とおもっていても、他人からは、「わがままなやつ。人の話も聞くことできないイヤなやつ」と思われているような場合、なかなか、自分では他人の認識を認められないものです。

ビジネススクールの先生ということであるので、ビジネスに生かせるという意味では、やはり「ジャムの法則」になると思います。

  • 選択肢は、7ー9個程度くらいまでが、あまり数が多くなさ過ぎるので選びやすいのでいいですよ。そうすると、自分で選んだ〜と感じることができるので、選択する人の満足度を高めて、いいですよ。。的なもの。。(超単純化)

あとは、あまりにも厳しい選択を迫るのは、後悔することもあるということですね。

さて、邦題は、『選択の科学』です。しかし、原題は、The Art of Choosingです。原題通りに、「選択のアート」だとちょっとわかりにくかったかもしれないので、邦題はいいかなと思います。ただし、本書の最後に、次の文があります。

『選択の全貌を明らかにすることはできないが、だからこそ選択には力が、そして並はずれた美しさが備わっているのだ。』

この最後に一文に、原題であるThe Art of Choosingという思いが込められているのでしょう。

本書が指し示すたくさんの事項は、読みこなすほどに、味があるので、手元において時折読むと思います。