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Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

【感想】『円高の正体』(安達誠司著) と『不動産は「物語力」で再生する』(川井徳子著)

今年はひときわ寒い冬。そんな冬には、家で読書もよいだろう。。そんなビジネスパーソンにお勧めの書籍を紹介しよう(トレンディ雑誌風のイントロ)。 選んだ本は、2冊。1冊は、マクロ経済に関する本だ。もう一冊は、経営に関する本だ。

まず、1冊目は、今、書店で関連書籍が山積みの「円高」に関する本だ。この手の本は、昔から、ハルマゲドン本というか、破滅本の方がよく出版されるようだ。しかし、本書は、それらの本に対するカウンターメッセージとなる本となる。

安達誠司(ドイツ証券シニアエコノミスト)氏の『円高の正体』だ。

円高の正体 (光文社新書)

円高の正体 (光文社新書)

安達さんは、河上肇賞受賞のエコノミストである。(受賞作は、『脱デフレの歴史分析――「政策レジーム」転換でたどる近代日本』として2006年刊されている。)

ご存知のように、リーマンショック以降、円高傾向が止まらない。特に、昨年の震災以降の円高は止まらない。野田財務大臣(当時)は、毎回のように「注視する」という言葉を繰り返し、安住財務大臣は、「注意深く監視する」という言葉を発信する。そして、ときどき、為替介入を実施し、短期間は影響が見えるが、円高傾向には変化がない。大手メディアを見れば、「円高は国力を表す」「円がユーロに比べて、安全資産だから高くなっている」などいろんな意見がある。しかし、円高になっても、景気がよくなっているわけでもなく、日本の国力が上がっているという実感はないだろう。日本の財政破たんをここまで喧伝しておきながら、一方で、「円が安全資産」という主張も矛盾していると感じないだろうか。

僕自身は、マクロ経済の専門に勉強したことがない。だから、どうして、円高・円安になるかということは、理論的には、よく知らない。そんな人向けに、本書は最適だ。まず、本書は、為替についての簡単な説明が実施される。そして、個人、家庭、企業にとって、円高、円安とはどのような影響を受けるのかを説明する。ここまでが、イントロだ。しかし、イントロで、
本書で流れる一つのメッセージ、『円高は日本経済にとって悪である』ということを雄弁に語る図表1(53p)が提示される。それは、円高になると名目GDPが下がっていくチャートだ。この数年の円高進行と歩調を合わせるかのように、40兆円程度の名目GDPが減少している。メディアにでてくる専門家とされる一部の人々の「よい円高」説や「通貨が高いことは、国力が高いということ」ではないことを一目で印象付けるグラフになっている。

では、なぜ円高になるのか、円高にはメリットがあるのかなど、本書で中核となる部分が始まるのは、第3章『「良い円高」論のウソ』からになる。4章、5章で、為替レートがどのようにして変化するかを説明する。そして、最後に、本書のタイトルとなっている、円高の正体に迫ることになる。本書のタイトル「円高の正体」は、ベストセラー「デフレの正体」にひっかけたものであることは、推察できるだろう。結論は、大きく違う。生産人口減少した国で、デフレに陥っている国は、日本だけであることを示したうえで、デフレの正体に迫り、円高の正体が明らかになる。

2冊目は、川井徳子さんの『不動産は「物語力」で再生する』だ。

不動産は「物語力」で再生する

不動産は「物語力」で再生する

奈良県で主に不動産業を営む川井さんの人生、哲学が語られる一冊になっている。

本紹介文:不良債権のホテルを『ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良2012』で紹介される優良ホテルに。荒れ果てた南禅寺界隈の名庭を再生、クリスティーズを通して世界的企業の創業者に売却。土地のメッセージを読み解く。「不良債権」を宝石に変える。

本書の最初で紹介される何有荘(かいうそう)にまつわる物語がインタビュー形式で語られる。旧稲畑勝太郎邸である何有荘は、数代の所有者を経由し、川井さんが手にしたときには、かつての名庭は荒れ果てた状態となっている。何有荘にまつわる物語を回想しつつ、彼女の経営哲学の基本を垣間見ることができる。最終的に、この何有荘は、再生され、日本の不動産としてははじめてクリスティーズを通して(IT業界的にはいろいろありますが) オラクルCEOラリーエリソンに売却されるまでを語る。つづく章は、彼女自身の物語(大病、肉親との遺産相続訴訟など) 、手かげた事業再生案件を中心に記述される。そして、最後に、最近の経営者は、あまり語らなくなった根のしっかり生えた経営哲学が語られる。

本書を貫くもの、そして、その経営哲学をささせるものは、奈良の歴史であり、日本の歴史だ。「自分は、歴史の一部であり、過去と未来をつなぐものとして存在している」と彼女は語る。そのため、語られる言葉は、京都や奈良を中心としたさまざまな偉人の言葉であり、哲学であったりする。また、現在・未来をつなぐということから、村上春樹や京大医学部を卒業し、小乗仏教に帰依し僧侶になった彼女の旧友も登場する。そして、それらを彼女は、咀嚼し、人に伝えることができる。知識だけではなく、自分の言葉で発信できる。それを感じさせる最適な例が、何有荘を査察に来た際にクリティーズ経営者に語った言葉だろう。
一般に読みやすいのは、やはり、彼女の再生の物語(訴訟、大病、離婚など)を語る章だ。特に、お遍路さんで出会う方のエピソードは、実際の体験が持っている力を感じる。

東洋経済新報社のビジネス本ではあるが、ノウハウが詰まったタイプの書籍でなく(法則を書いた章があるが)、読後に、彼女が語った言葉を調べたり、考えていくほうが適切なものだろう。

1冊は、新書であり、もう1冊も手ごろな本である。円高やデフレについて、考えてみたい人は、安達さんの本を推薦する。いわゆるビジネス書を読みのが好きな人は、川井さんの本をお勧めする。特に、ラリーエリソンが日本庭園好きという話を聞いたことがあるIT業界の人は、興味を引くのではないだろうか。