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Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

[感想] 『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』

今年のぼくのトップ10の中にも入れた、ビジネス書トップ3だった1冊は、『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』(入山 章栄 著) 。


著者である入山先生は、現在、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール アシスタント・プロフェッサーをつとめる経営学の学者です。

今までなぜか、なかった切り口(世界における経営学の最先端の研究を紹介する) のためなのか、あるいは、エッセイ風の文章であるため、読みやすかったからか、また、取り上げるテーマも気になる領域が多いためか、非常に評判が高く3万部を突破したそうです。

その評判によって、今月から、日本のビジネス系サイトでは、トップクラスを誇る日経ビジネスオンラインで、連載も始まりました。


本書を読めば、日本のビジネスパーソンがイメージする経営学と本場(特に米国)の経営学の違いを知ることができます。
例えば、日本の経営学者は、ケーススタディを非常に重視することを指摘しています。また、ハーバードビジネススクルールのケーススタディが著名すぎるので、多くのビジネスパーソンが想像する経営学は、「ケーススタディ」であるという認識を持っている人もおおいことでしょう(HBSが教育機関として、ケーススタディを用いる話と研究とは、別個に考えないといけません)。

この連載第1回で、ドラッカーについて引用することで、日本の動向と世界の動向とが違う理由を簡潔に紹介しています。

米国の主要なビジネススクールにいる教授の多くは、ピーター・ドラッカーの本をほとんど読まない。ドラッカーの考えにもとづいた研究もまったく行われていない
その最大の理由は、「世界の~」でも書いたのですが、やはりドラッカーは名言ではあっても科学ではない、ということに尽きると思います。

 現在、米国の経営学は「社会科学になる」ことを重視しており、そのために「企業経営の真理の探究」を目指しています。そのために必要なのは、しっかりした経営理論の構築と、その理論から導かれる仮説を、統計分析や実験などのなるべく科学的な方法で検証することだと考えられているのです。ドラッカーは名言かもしれないけれど、科学的な裏打ちがないので、米国の経営学者は参考にしないのです。

経営学という学術分野だけにとどまらず、海外では(少なくとも米国では)、自分の米国への留学や外資系での体験を考えても、「ドラッガー」が話題になったことは記憶にありません。それに加えて、今回、日経ビジネスのコラムで紹介されている「ビジョナリーカンパニー」(ジム・コリンズ著) ですら、学者はスルーということに、驚くビジネスパーソンも多いと思います。(個人的に、「XX分類を定性的に行って、この企業がよい、悪い」というのは、究極の分類行為を永遠にすることになるにしかならないと思っているので、この手のビジネス書は読みません。)

また、本書がターゲットする経営学がカバーしている領域に、「広告」などが入っていないことにも、驚く人が多いと思います。一般に流布されれるビジネスの話題の多くは、「広告」に関するものが中心ではないでしょうか? にもかかわらず、経営学には、広告の話が入っていないわけです。

本書を読んでの感想は、「ぼくが当初ビジネススクールに入学して、違和感を感じていた経営学についての1つの回答がある」です。当初、ビジネス書を読んだときに、強烈に感じた違和感は、「XX戦略」といわれるものが、定性的な話ばかりで、数字的な検証がほとんどされていないということでした。多くの場合、定性的な分析から、一般化を図るという帰納法的ロジックです。

通常、自然科学では、1つの法則が多くの場合数字などを伴って発表されます。すると、それに対して、後追いの検証があり、その法則が正しいことが裏付けされることになります。ビジネス書ではほとんどこのようなロジックが出てくることがありません。つまり、科学的でない気がしていたのです。しかし、実際には、経営学の学術の場では、「社会科学」であろうという努力をしているということを知ることができました。(帰納法的ロジックでも、いいと思いますが、一般化が大きい。あるいは、例外を無視している本が多い。事例ベースのXX戦略というのには、この手の話が多いです。「シリコンバレーで成功したベンチャー10社から学ぶ5つの法則」みたいなタイプのものです。)。

では、実際にどのような議論がされているかは、ぜひ本書を読んでほしいところです。

個人的に、面白かった話題の1つは、「M&Aで企業買収するときに、どうして、CEOは、市場価値よりも、高い価格で買収するのか?」」という研究(おおざっぱ書いています)。市場価値は、経済学などである程度理論的な計算を実施する方式が確立されているにもかかわらず、その算出された価格よりも、高い価格で、どうして、買収する企業は、買うのかということを、「それは、CEOの見栄」であるといったことを統計的に明らかにするようなものです(おおざっぱに書いているので、正しい説明は本書を)。

では、実務者として、これらの研究をどう生かすか? ということがあるかと思います。1つは、「考える力をつける」ことに利用することでしょう。いつもと、少し違った視点で、ビジネスを俯瞰する示唆を与えるものとしてみることです。2つ目は、これらの研究などから、実務的に利用できるフレームワークなどが生み出されてくることを待つということもあるでしょう。例えば、本書で取り上げられてるオプション理論に基づいた事業投資の話は、一般のビジネス書として紹介されています(個人的には、オプション理論に基づいた事業投資のロジックは、「決定する」経営層や彼らを支えるスタッフにとって、すぐには、理解できないので、活用が難しいと思っています)。

連載も含めて、ぜひ、年末年始に読んでほしい一冊です。

PS:入山先生に、2年ほど前に、日本には、国内でだけ流通する『ランチェスター戦略』というのがあるということをtwitterで紹介したことがあります。先生は、かなり驚かされていました。初めて聞いた『戦略』だったそうです。ぼくも、外資系を辞めてから、日系企業をお手伝いするようになって、初めて知った『戦略』でした。この戦略についての本は、書店でもたくさんあるのに、ぼくの目には、「一切入っていなかった」という認知の問題も面白いものでした。
(自分の経験としては、世界的に著名なビジネスコンサルティングと仕事をしたり、グローバルの事業計画作りにかかわった経験もありますが、知らなかったのですよ。目にも止まっていなかったのです)。