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Akai's Insight & Memo

かなり小さなマーケティング会社の社長のブログ。MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長 赤井 誠。http://www.mkt-i.jp id:mktredwell

[感想] 僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 (荻上チキ著)

昨年もそうだが、今年も、大きな活躍を示した評論家 荻上チキさんの最新著作『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』の1冊。

はじめに断っておくと、今年活躍したということで間違われる「ちきりん」ではありません。以前のチキさんの書籍感想でも書いたように、ぼくは、チキさんを、今後、日本を代表する評論家になると思っています。最近は、テレビで見かける人も増えた思います。また、共著を含めて、出版される著作も増えてきました。

本書は、そのチキさんの最新著作です。

内容紹介
叩いて終わりはもう終わり
政治家 官僚 バラマキ政策 生活保護論争 いじめ問題
「朝まで生テレビ! 」「ニッポンのジレンマ」を1人でやってみました! !

ここ20年の経済停滞からくる個人の生きづらさを反映し、益のない個人叩きや、意見・提言へのバッシング合戦が横行する日本。でも僕らには時間がない。一刻も早く、ポジティブな改善策を出し合い(ポジ出し)、社会を少しでもアップグレードさせなくては――。注目の若手評論家が、政治・経済、社会状況のバグ(問題)を総チェックし、解決のためのフレームを提示。誰かを採点し続けるのではなく、自ら当事者として社会を変えていくための実効性ある方法を提言する。


本書で、勉強になったことは、「インクルージョン(包摂、Inclusion)」という考え方。

昨今、グローバル企業では、「ダイバーシティ」という単語より、「インクルージョン」という単語を付けた活動や部署が多くなりました。日本では、まだまだ、これからの単語だと思います。ぼくも、どうも掴みきれなかった活動でした。

「ダイバーシティ」は、Diversityが、多様性と訳されているように、人々の違いを意識して、その多様性を重んじようという考えだと思います。ダイバーシティの一環として、女性・障害者といった人々に目を向けて、企業は対応していくべきだという動きになっています。
では、包摂(インクルージョン)とは、何でしょうか?

今までの社会というのは、犯罪者だけでなく障害者や、教育を受けられない低所得の人、あるいは女性や母子家庭で育った人など、いろいろな人を「排除」して設計されてきた歴史があります。
しかし、彼(彼女)らも社会の一員であり、そういった人がいることを前提とした社会をそもそも意識しながら制度を作っていこうよ、というのが包摂の理念です。
現在あちこちで、知られざる社会問題が発掘されていて、そこには今まで居なかったとされてきた人たちの存在が明らかになっています。そうした人たちを含めた社会作りをしていくことが、この理念の基本です。(80-81.p)

では、このような人たちをインクルージョンする社会をどうやって設計していったらいいかという「考え方」を紹介するのが本書だといえるかもしれません。この手の話題では、どうしても、「人権が大切なのは理解できるが、お金がかかるので、優先順位が必要」とか「無駄遣いが多いのだから、それをカットしたら、予算は作れる」などなど、議論が絶えることがありません。

こういったときに、提案されている考える方法が、「功利的な包摂」と「倫理的な包摂」という2つのレンズを通して、問題を考慮していくことです。「倫理的な包摂」については、わかりやすいと思います。倫理の問題として、包摂の問題を訴えかけるものです。一方、興味深いものは、「功利的な包摂」の考え方です。それは、包摂することが、社会にとって、いかに得になるかを訴えていくものです。

例えば、毎年5%の退学者がでるAという大学がありました。退学する学生は、自己責任なのだから、ほっと置けばいいという考えが一方であります。それに従って、そのまま放置すると、対策ができません。研究によって、「大学を欠席しがちな学生を早期で発見し、連絡して、話を聞き、必要に応じて、面談・カウンセリングを実施することで、退学者を減らすことができる」ということがわかっています。このとき、A大学にとって、そのような学生に、早期対応をすることによって、退学者を3%減らすことができたそうです。結果として、A大学にとっては、「3%の学生が辞めなかったことにより、退学したら、学生が支払わなかった授業料という収益を得ることができた」ことになります。また、学生にとっても、「退学することで、就職が困難なるということを避けることできる=就職できれば、生涯年収も高くなる」ことになります。また、国としても、「高い税金を納めてくれる人を増やすことになる」ので、いろいろな活動ができる原資を得ることができることになります。

興味深い考え方ですよね。

このようなロジックで、いかに得になるかということに訴えて、話を前進させる考え方です。この考えは、とてもイイと思います。
グローバル企業が包摂(インクルージョン)という考えを取り入れているのは、いろいろな人たちと働くことで、倫理的な対応だけでなく、「何か得する」という考えであってのことでしょう。


本書では、いろんな思考法が、いくつもコンパクトに紹介されている一冊です。年末・年始に読むのもいいと思います。