『クーリエ・ジャポン』特集とブックオフの成功から考える、秋の夜長に向けて
雑誌が売れないというニュースが出てから、どれくらいたったでしょうか?
ぼくにとって、数少なくなった定期購読している雑誌が、『クーリエ・ジャポン』http://courrier.jp/ です。創刊時は、あまり面白くなかったのですが、徐々に連載陣も充実し、特集もいいものが多くなったという印象です。元々、手に取るきっかけになっているが、次のような連載があるからです。
- 町山智浩のUSニュースの番犬
- 富坂聰×中島岳志 「龍」と「象」の比較学
- 山形浩生 今月の「The Economist」
- S.レヴィット&S.ダブナー 〝悪ガキ教授〞の「もっとヤバい経済学」(今回も面白い!)
- P.クルーグマン アメリカよ、どこに行く
今月号(2011年10月)の特集は、いつもより、面白く、ブログで紹介したい内容だったのです。
- 特集『”人を動かす科学〞の最前線すべては「心理」が決めていた』
想像してみてほしい。たとえば、あなたが友人に簡単な仕事をお願いするとして、500円ほどの謝礼を支払うのと、「申し訳ないけど、よろしく!」と頼むだけとでは、どちらが友人は〝良い働き〞をしてくれるだろうか?実験によると、答えは後者だ。世界ではこうした実験によって、人の「思考回路」が徐々に明らかになってきている。プライベートはもちろん、ビジネスにも活用できる最新の心理学の智慧を紹介しよう。
いくつもの事例や記事が紹介されています。ビジネスに、すぐに生かせそうなところでいうと、以下のものがあるでしょうか。
- 「女性が赤い服を着ると魅力が増すことは最近の研究で裏付けられている。男性も同様で、女性は赤い服を着た男性を見ると、健康で、社会的な地位が高いという信号を本能的に受け取る」
- 「人は繰り返し良い結果が得られると、自分の戦略が正しいという確証を得たように感じてしまう。この幻想は私たちに根拠のない自信を与え、複雑なシステムに遭遇したとき、予期せぬ事態に見舞われることになる」
- 「猛烈な努力を必要としないほど才能のある人間なんていない。猛烈な努力をさせる原動力となるのが『根性』なのです」心理学者アンジェラ・ダックワース
- 「選ぶ過程の一部である情報処理の大半をスキップさせることで、選択の認知的ストレスを最小限に抑え、消費者を惹きつけることができる」
その中で、最後のテキストを取り上げてみます。実際の記事は、以下になります。
- なぜ、あの店で買い物をすると楽しいのか?
この記事を書いたのは、シーナ・アイエンガーさん。最近『選択の科学』で話題の学者です。
- 作者: シーナ・アイエンガー,櫻井 祐子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/11/12
- メディア: 単行本
- 購入: 27人 クリック: 661回
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今回事例として以下のものを取り上げています。
100種類以上のジャムの品揃えがあるスーパーマーケットで、店にきた顧客に対して、自由に24種類のジャムを試食してもらったグループと6種類のジャムしか試食できないグループを作った。このとき、売り場に足を運んだ割合は24種類のジャムを選べたグループの方が多かったが、実際の購買に結びついたのは、後者の6種類のジャムしか選べなかったグループの方だった。
消費者は選択肢が多いと「自分がコントロールできる」と考えるが、実際は選択肢が7種類以上になると選択が困難になること、そして、人は選択することに対して、負担を感じて、フラストレーションを覚えることが紹介されています。
このことから思い出したのが、ちょっと違う方向ですが、ブックオフのビジネスのことです。ご存知のようにブックオフでは、不要になった本を買い取って、販売するというのが基本のビジネスモデルです。
従来、中古本市場というのは、『目利き』の店主がたくさんいて、古書や希少本などを入手し、それをマニアを中心にした顧客層に販売するというところがありました。この『目利き』、つまり、「この本」がどれくらいの価値があるかということを見極めて、それを適正な価格買取、また、適正な価格で販売するということに、専門性、プロフェッショナル性が求められていたのです。
ブックオフのビジネスモデルの革命のひとつが、よく言われるように「目利きを不要」にしたことにあると思います。それは、カバーがついていて、きれいな本だったら、一律xxで買取といった、「素人でも買取が可能」という方式を割り切って導入したところです。このことにより、ブックオフで働く従業員、アルバイト、フランチャイズに対する教育が、簡素になり、顧客サービス(本を磨くとか)に比重をおくことができるようになり、リピーターが増え、成功したということになります(古本屋に入ったらわかりますが、あのほこりっぽいのは、好きでないとつらいですが、ブックオフには、あの手の店はない)。
このブックオフのケースは、直接の「選択」の話ではないのです。しかし、私たちは、やもすると、「あれも、これも」といったように、従業員にたくさんの教育したり、顧客に選択肢を提供しすぎたり、ソフトウェアにたくさんの機能を提供しすぎたり、製品ラインナップを増やしたりする傾向にあります。しかし、実際の顧客の立場だけでなく、働く方々にとっても、たくさんの選択肢やたくさんの内容を提示されることは、結果として、負担に感じることが多くなり、売上が伸びなかったり、満足度を下げることに、つながってしまうことになっていないでしょうか?
少し、ゆっくりと考えてみるといいかもしれません。
その他に紹介されているのは、次のような本です。秋の夜長に、読んでみたいと思いました。
- 作者: マイケル・J・モーブッサン,関谷英里子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: 単行本
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「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力
- 作者: キャロル S.ドゥエック,今西康子
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2008/10/27
- メディア: 単行本
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